売上を計上する際、売上はいくら計上するべきでしょうか?
単純に物を仕入れて販売するケースでは簡単なのですが、例えば口銭手数料を目的とした商売ではその限りではありません。商取引によって売上を計上する基準が異なるのです。
本項では総合商社の実例紹介と、国際会計基準の観点から「総額計上」か「純額計上」かについて検証します。
目次
1.グロス(総額)計上とネット(純額)計上の違い
売上計上基準については、グロス(総額)計上とネット(純額)計上があり、それぞれ売上を計上する金額が異なります。具体的に見ていきましょう。
A.グロス(総額)計上の要件
実例1:小売業を営むX社では卸売業者から商品Aを80円で仕入れ、100円で販売する取引をしました。この場合、会計上の売上と原価はどうなるでしょうか?
グロス=grossとは「総計」という意味を持ちます。GDPで使われる「Gross Domestic Product」が身近な例に挙げられるでしょう。掛取引の場合、会計帳簿は以下の仕訳になります。
(借方)仕入 80 / (貸方)買掛金 80
(借方)売掛金 100 / (貸方)売上 100
このケースでは、X社は卸売から仕入をすることによる「在庫リスク」や「信用リスク」を抱え、売上をあげることによる「小売価格の裁量権」を持つことから、A.グロス計上をとることが多いです。
B.ネット(純額)計上の要件
ネット=netとは「正味の」「中身だけの」といった意味合いを持ちます。
実例2:仲介業を営むY社では、100円の商品を1件販売するごとに20%の紹介手数料がY社に支払われるという、口銭(手数料)を目的とする契約を結んでいます。1件紹介するごとに、100円*20%=20円の口銭がY社に支払われます。
掛取引の場合、1件発生するたびに、会計帳簿は以下の仕訳になります。
売掛金 20 / 売上 20
両者の場合、売上利益という意味では20円で同じですが、売上は100円と20円で、原価を上乗せした分A.グロス計上の方が一件大きなビジネスのように見えます。
このケースでは、Y社は口銭を手にすることを目的にしたビジネスを行っています。卸売から仕入をすることによる「在庫リスク」や「信用リスク」を抱えないですし、売上をあげることによる「価格の裁量権」を持ちません。すなわち、正味の利益だけを売上とする、B.ネット計上をとることが多いです。
2.業界による売上計上の実例
商社においては、長年の商慣習から、ほとんどの取引を総額計上で処理していました。
しかし、後述するIFRS(国際会計基準)の見解から、商社においては商取引において、各社の本人当事者としての取引として認められない場合、純額計上で処理することを余儀なくされました。
三菱商事は、2015年3月期において代理人として取引を行う取引を売上高を、手数料のみの表示したことで、前年比30%の売上減となったことをプレスリリースしています。
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2015/html/0000027374.html
その他、百貨店においては「消化仕入」という商慣習があり、「商品が販売された」時点で「仕入を計上」するという、在庫リスクを製造業者や卸売業者に負担させるというやり方ができます。この場合においては、百貨店側が在庫リスクを背負わないこと、価格裁量権がないことから純額計上で処理せざるを得なくなり、総合商社と同様、売上高が下落しました。
3.日本の商慣習と国際会計基準による扱いの違い
日本の企業会計原則においては、「総額主義の原則」があるものの、明確な計上基準が存在せず、各々の商慣習に基づいた会計処理が認められていました。
しかし、IFRSにおいては下記4項目のいずれかを満たしていることが、企業が本人当事者として取引を扱う要件として認められます。
- (a) 物品又は役務を顧客に提供する、或いは注文を履行する主たる責任を負っている
- (b) 在庫リスクを負っている
- (c) 直接的又は間接的に価格を設定する裁量がある
- (d) 顧客からの債権に関する与信リスクを負っている
これらの要件を満たさない場合、総額計上ではなく、純額計上で処理するべき、というのがIFRSの見解です。
4.ベンチャー企業ではどのように扱うべきか?
ベンチャー企業においても、売上高を総額計上にするか、純額計上にするかは、投資家の重要な関心事と言えます。東証に上場するような企業ですと、売上高が企業規模の判断材料とみなされる場合もありますし、売上高を膨らませる総額主義が好まれる傾向があります。
しかし、純額主義においても、収益金額は変わりありません。収益率が高くなるというメリットもあります。また、将来的にIFRSを適用する規模の企業まで成長した時に、グロス計上かネット計上かの判断根拠を説明されることが考えられます。
いずれにしても、IFRSで示されているような、企業が本人当事者として取引を行っているかに即した会計基準を適用することが求められます。
5.参考URL
IFRSの基本 連載第3回:IFRS導入の影響-収益(その1)
https://www.ifrs.ne.jp/news/rensai_vol08.php
商品リンク
6.脚注
2020/06/27
yoshi-kky